コラム

顧客価値と付加価値の違い〜なぜあの店は愛されるのか?〜

「品質がいいのに売れない」その原因は価値の捉え方にあります。顧客価値(お客様の嬉しさ)と付加価値(企業の利益)の違いを3つのケースで解説。愛される店になるヒントがここにあります。

「うちの商品は品質がいいのに、なぜ売れないんだろう」
「こんなに安くしているのに、お客さんが来ない」

こんな悩みを抱えていませんか?実は、この悩みの根本には「価値」の捉え方に問題があることが多いのです。

本記事では、経営において最も重要な概念である「顧客価値」と「付加価値」の違いを明確にし、あなたのビジネスを「愛される店」に変えるヒントをお伝えします。

顧客価値とは何か

顧客価値とは、お客様が商品やサービスから得られる「嬉しさ」の総量です。

ここで重要なのは、価値を決めるのは売り手ではなくお客様だということ。どんなに高品質な商品でも、お客様が「欲しい」と思わなければ価値はゼロです。

ドラッカーはこう述べています。

「顧客にとっての価値を知ることは難しい。しかし顧客のみが知っている。聞かなければならない。」
── P.F.ドラッカー『マネジメント[エッセンシャル版]基本と原則』

顧客価値の4つの種類

価値の種類 内容
機能的価値 商品の性能・品質・機能 「よく切れる包丁」「燃費の良い車」
経済的価値 価格の安さ、コストパフォーマンス 「激安スーパー」「格安SIM」
心理的価値 安心感、満足感、自己表現 「ブランドバッグを持つ喜び」「老舗の信頼感」
社会的価値 環境配慮、社会貢献への参加 「エコバッグ」「フェアトレード商品」

多くの企業は「機能的価値」と「経済的価値」だけで競争しがちですが、本当に愛される店は「心理的価値」と「社会的価値」も提供しています。

付加価値とは何か

付加価値とは、企業が経済活動によって新たに生み出した価値のことです。会計的には「売上高 - 外部購入費用(原材料費、仕入高など)」で計算されます。

項目 計算式・説明
売上高 1,000万円
外部購入費用 400万円(原材料、仕入れなど)
付加価値 600万円(自社が生み出した価値)

付加価値は、人件費・利益・減価償却費などの源泉になります。つまり、付加価値が大きいほど、社員に還元でき、投資もでき、利益も残せるのです。

顧客価値と付加価値の決定的な違い

観点 顧客価値 付加価値
視点 お客様から見た価値 企業から見た価値
測定 主観的・定性的 客観的・定量的(金額)
関係 顧客価値が高いから購入される 購入された結果、付加価値が生まれる

重要なポイント:顧客価値が先、付加価値は後。顧客価値を高めることで、結果として付加価値(利益)が生まれるのです。順番を間違えると「良いものを作っているのに売れない」という状態に陥ります。

ケーススタディ

ケース1:町のパン屋さんが大手に勝てた理由

背景:札幌市内の住宅街にある個人経営のパン屋A店。近くに大手スーパーが出店し、100円パンコーナーができた。価格競争では勝てない。

A店の戦略:

  • 「今日のおすすめ」を店主が手書きPOPで紹介(心理的価値)
  • 常連客の名前を覚えて声をかける(心理的価値)
  • 地元農家の小麦を使用し、その農家の写真を店内に掲示(社会的価値)
  • 焼きたて時間を告知し、その時間に行列ができる仕組み(機能的価値)

結果:大手スーパー出店後も売上を維持。むしろ「うちの町のパン屋」として愛着が深まり、リピート率が向上。

教訓:価格(経済的価値)で勝てないなら、他の3つの価値で勝負する。

ケース2:高品質なのに売れなかった工務店

背景:地方の工務店B社。職人の技術力は地域トップクラス。しかし新築受注が年々減少。

問題点:

  • 「うちの家は丈夫です」としか言わない(機能的価値のみ)
  • お客様が何を求めているか聞いていない
  • 競合との違いが伝わっていない

改善後:

  • 「子育て世代の暮らしやすさ」にフォーカス(ターゲット明確化)
  • OB施主の暮らしぶりをSNSで発信(心理的価値の見える化)
  • 地元木材を使った「地産地消の家づくり」をコンセプトに(社会的価値)

結果:2年後、新築受注が1.5倍に回復。

教訓:「良いもの」と「売れるもの」は違う。顧客価値の言語化が必要。

ケース3:付加価値を高めた製造業の挑戦

背景:金属部品製造のC社。下請けとして大手メーカーに納品していたが、価格競争で利益率が低下。付加価値率が20%を切る状態に。

改善策:

  • 単なる部品製造から「設計提案型」に転換
  • 顧客の課題をヒアリングし、コスト削減や性能向上を提案
  • 試作から量産まで一貫対応できる体制を構築

結果:単価は従来の1.5倍になったが、顧客にとっては「トータルコスト削減」というメリットがあり受注増。付加価値率は35%に向上。

教訓:顧客価値を高めれば、付加価値(利益)は後からついてくる。

顧客価値を高める3つの質問

自社の顧客価値を見直すために、以下の質問を自問してください。

  1. 「お客様は、なぜうちを選んでくれているのか?」
    → 機能?価格?安心感?その答えが顧客価値のヒント
  2. 「お客様は、うちに来なかったらどこに行くのか?」
    → 競合との違い(差別化ポイント)が見えてくる
  3. 「お客様は、どんな時に『買ってよかった』と感じるのか?」
    → 心理的価値の源泉がわかる

まとめ

  • 顧客価値:お客様が感じる「嬉しさ」。機能・経済・心理・社会の4種類がある
  • 付加価値:企業が生み出した経済的価値。利益や人件費の源泉
  • 順番が大事:顧客価値が先、付加価値は後。お客様に選ばれるから利益が生まれる
  • 愛される店の秘密:価格以外の価値(心理的・社会的)で差別化している

参考文献
P.F.ドラッカー『マネジメント[エッセンシャル版]基本と原則』ダイヤモンド社
フィリップ・コトラー『コトラーのマーケティング・コンセプト』東洋経済新報社

筆者:芝 香(しば かおる)
ネクストソサエティ株式会社 代表取締役。北海道文教大学非常勤講師(経営マネジメント論・マーケティング論)、北海道大学会計レクチャー講師。恵庭市主催の起業塾講師も務める。中小企業の経営支援やICT導入コンサルティングを専門とする。