コラム

新年の経営計画の立て方〜実行できる目標設定のコツ〜

年初に立てた目標が3月には忘れられていませんか?経営計画が「絵に描いた餅」で終わるか実行できるかは作り方次第。SMART原則と5ステップで、中小企業でも使える計画策定法を3つのケースで解説します。

「今年こそ売上アップ!」
「働き方改革を進める」
「新規事業を立ち上げる」

年初に意気込んで立てた目標が、3月には忘れ去られている──そんな経験はありませんか?

経営計画が「絵に描いた餅」で終わるか、実際に会社を動かす力になるかは、計画の立て方で決まります。本記事では、中小企業でも実践できる経営計画の作り方を、具体的なステップとともに解説します。

なぜ経営計画が必要なのか

「うちは小さい会社だから、計画なんて大げさ」──そう思う経営者も少なくありません。しかし、経営計画には以下の3つの意義があります。

意義 内容
1. 方向性の共有 「どこに向かうのか」を社員と共有することで、全員が同じ方向を向いて進める
2. 意思決定の基準 日々の判断に迷った時、計画が判断基準になる(「これは計画の方向性に合っているか?」)
3. 進捗の可視化 目標があるから「順調か、遅れているか」がわかる。修正のタイミングも見える

ドラッカーはこう述べています。

「計画とは、未来についての現在の決定である」
── P.F.ドラッカー『マネジメント[エッセンシャル版]基本と原則』(p.127)

つまり、計画は「未来を予測すること」ではなく、「今、何をするか決めること」なのです。

経営計画の3つのレベル

経営計画には時間軸によって3つのレベルがあります。

レベル 期間 内容
長期計画 3〜10年 会社のビジョン、事業ドメイン、大きな方向性
中期計画 1〜3年 具体的な数値目標、戦略の方向性、投資計画
短期計画 1年以内 年度予算、部門別目標、アクションプラン

中小企業の場合、まずは「1年間の経営計画」をしっかり作ることから始めましょう。いきなり10年計画を作っても、変化の激しい現代では意味がありません。

実行できる目標設定のコツ:SMART原則

「売上を増やす」「品質を上げる」「顧客満足度を高める」──こうした目標は、一見良さそうですが、実は実行できない目標の典型です。

実行可能な目標には、SMARTの5つの要素が必要です。

要素 意味 悪い例 → 良い例
Specific 具体的 「売上を増やす」→「月商を500万円にする」
Measurable 測定可能 「顧客満足度を上げる」→「NPS(顧客推奨度)を+20にする」
Achievable 達成可能 「売上を3倍に」→「売上を前年比120%に」
Relevant 関連性がある 会社のビジョンや戦略と整合しているか
Time-bound 期限がある 「新規顧客を増やす」→「6月末までに新規顧客10社獲得」

ポイント:目標を立てたら、必ず「これはSMARTになっているか?」と自問してください。一つでも欠けていると、実行が曖昧になります。

経営計画策定の5ステップ

では、具体的にどう計画を作ればよいのでしょうか。以下の5ステップで進めます。

ステップ1:現状分析(自社の棚卸し)

まず、自社の現状を客観的に把握します。

  • 財務面:売上・利益・キャッシュフローの推移
  • 顧客面:主要顧客、顧客単価、リピート率
  • 商品・サービス面:売れ筋、利益率、競合との差別化ポイント
  • 組織面:人員構成、スキル、課題

ステップ2:環境分析(外部要因の把握)

自社を取り巻く環境を分析します。

  • 市場動向:業界の成長率、市場規模の変化
  • 競合動向:競合の戦略、強み・弱み
  • 法規制・政策:業界に影響を与える規制変更
  • 技術動向:DX、AI、業界固有の技術革新

ステップ3:ビジョン・目標の設定

「1年後にどうなっていたいか」を明確にします。

  • 定量目標:売上、利益、顧客数など(SMART原則で設定)
  • 定性目標:ブランドイメージ、組織文化など

ステップ4:戦略・施策の策定

目標達成のための具体的な方法を考えます。

  • 何を(What):重点施策を3〜5つに絞る
  • いつまでに(When):四半期ごとのマイルストーン
  • 誰が(Who):責任者を明確にする
  • いくらで(How much):予算配分

ステップ5:進捗管理の仕組み化

計画は作って終わりではありません。

  • 月次レビューの実施(最低でも四半期に1回)
  • KPI(重要業績評価指標)のモニタリング
  • 計画からの逸脱があれば、原因分析と軌道修正

ケーススタディ

ケース1:「計画倒れ」が常態化していた製造業A社

背景:従業員30名の金属加工会社A社。毎年1月に経営計画を立てるが、4月には誰も覚えていない状態が続いていた。

問題点の分析:

  • 計画が「社長の頭の中」にしかなく、文書化されていない
  • 目標が「売上アップ」など抽象的で、進捗が測れない
  • 計画を振り返る機会がない

改善施策:

  • A4用紙1枚の「経営計画シート」を作成し、全社員に配布
  • 目標をSMART原則で設定し直し(例:「6月末までに新規取引先5社開拓」)
  • 毎月の全体朝礼で進捗を報告する仕組みを導入

結果:1年後、計画の達成率が前年の30%から75%に向上。「何をすべきかが明確になった」と社員から好評。

教訓:計画は「作る」ことより「共有し、振り返る」ことが重要。

ケース2:数値目標だけで社員が疲弊した小売業B社

背景:店舗数5店舗の小売チェーンB社。経営計画で「売上前年比130%」という高い目標を設定。

問題点:

  • 達成不可能な目標に社員のモチベーションが低下
  • 売上至上主義で、顧客対応の質が低下
  • 無理な営業で既存顧客の信頼を失う

改善施策:

  • 目標を「売上」だけでなく「顧客満足度」「リピート率」のバランスで設定
  • 売上目標を前年比110%に下方修正(達成可能なレベルに)
  • 店舗ごとに「お客様の声」を集める仕組みを導入

結果:売上は前年比112%と控えめだが、顧客満足度が向上し、リピート率が15%アップ。長期的な売上基盤が強化された。

教訓:「Achievable(達成可能)」を無視した目標は、組織を壊す。

ケース3:銀行融資を引き出した経営計画

背景:飲食業C社(従業員15名)は、新店舗出店のため銀行融資を申請。しかし、最初の申請は「計画性がない」として却下された。

改善施策:

  • 3か年の中期経営計画を策定(売上・利益・投資回収計画)
  • 市場分析を盛り込み「なぜこの立地なのか」を論理的に説明
  • リスクシナリオ(最悪ケース)と対応策も明記
  • 月次での進捗報告を銀行に約束

結果:2度目の申請で3,000万円の融資を獲得。銀行担当者から「ここまでしっかりした計画は珍しい」と評価された。

教訓:経営計画は「社内向け」だけでなく「対外的な信用」を得るツールにもなる。

経営計画作成チェックリスト

以下の項目を確認して、経営計画を点検してください。

【目標設定】

  • 目標は具体的な数値で表現されているか
  • 達成状況を測定できる指標があるか
  • 現実的に達成可能な目標か
  • 会社のビジョンと整合しているか
  • 明確な期限が設定されているか

【計画の内容】

  • 現状分析(自社・市場・競合)が含まれているか
  • 重点施策は3〜5つに絞られているか
  • 各施策に責任者が明記されているか
  • 必要な予算・リソースが見積もられているか
  • 四半期ごとのマイルストーンがあるか

【実行・振り返り】

  • 進捗を確認する定例会議が設定されているか
  • 計画書は社員に共有されているか
  • 計画からの逸脱時の対応ルールがあるか
  • 年度末に振り返りを行う予定があるか

まとめ

経営計画を「実行できる計画」にするためのポイントをまとめます。

  • 計画の目的を明確に:方向性の共有、意思決定の基準、進捗の可視化
  • SMART原則で目標設定:具体的・測定可能・達成可能・関連性・期限
  • 5ステップで策定:現状分析→環境分析→目標設定→戦略策定→進捗管理
  • 作って終わりにしない:月次レビュー、軌道修正の仕組みが必須
  • シンプルに:100ページの計画書より、A4用紙1枚の共有できる計画書

参考文献
P.F.ドラッカー『マネジメント[エッセンシャル版]基本と原則』ダイヤモンド社
小山昇『経営計画は1冊の手帳にまとめなさい』KADOKAWA
岩田松雄『今までの経営書には書いていない 新しい経営の教科書』PHP研究所

次回は「マネジメントに必要な5つの能力」として、ドラッカーが提唱した概念化能力・対人関係能力など、組織を動かすために必要な能力を解説します。

筆者:芝 香(しば かおる)
ネクストソサエティ株式会社 代表取締役。北海道文教大学非常勤講師(経営マネジメント論・マーケティング論)、北海道大学会計レクチャー講師。恵庭市主催の起業塾講師も務める。中小企業の経営支援やICT導入コンサルティングを専門とする。